秘/恋
「こわッ」
つぶやいて、思わず笑ってしまう。
ぎりぎり歯軋りしながら、携帯を握りしめるなぎの姿が、簡単に想像できる。
それと――その隣には、ヒヨコ頭の彼。
「明姫」
明良が、あたしを呼ぶ。
見返すと、明良がすこし、きつい瞳であたしを見つめていた。
正確にはあたしと――あたしの手のなかの、銀色の筐体。
その視線にもやっと、あたしのなかに不可解な感情が生まれる。
手を伸ばしてもつかみとれない、触れて確かめることのできない、煙みたいなもの。
さわれないのに、ほの暗い。
「……あき」
「明姫、降りよう」
くっきりとした、明良の声。
タイミングよく、電車がホームに滑り込む。
あたしの手を引いて、明良が立ち上がった。