秘/恋
「呼んでないわよ!」
条件反射で叫んでから、あたしはぴたっと、動きを止めた。
――違う。
呼んだのかも、知れない。
あたしが頼れる他人はたぶん――なぎと、目の前の金髪アタマしか、いないんだ。
ふたりは、いつの間にか、あたしの頼れる他人に、なっていたんだ。
すとん、とそのことは胸に落ちて、じんと熱を帯びる。
そのぬくもりは指先まで届いて、海風に冷えたあたしの身体を、ゆっくりと暖めた。
――あたしは、変わったのかな?
変わってしまったのかな?
「明姫」
――でも、変わっていないところだって、いっぱい。
たとえば、この声の、引力。
「明良」
あたしと同じ髪。
あたしと同じ瞳。
あたしと同じ血。
無条件にあたしを守る、その両手。
あたしとおなじパーツで組み上げられたこのひとが、あたしは、この世でいちばん好き。
きっと、一生変わらない。
一生、変われない。
――だから。
後ろ手に、樹也のパーカーを握る。
お守りみたいに、一瞬。
昔よりも強く変わったんだって、信じるための一瞬のおまじない。