秘/恋
「明姫?!」
明良の声は背後に置き去り、樹也の脇もすり抜ける。
ぐんぐんぐんぐん、海が近づいてくる。
「バカ! 明姫を止めろ!」
あたしの意図に気づいたのか、明良が怒鳴る。
「はあ!?」
「早く! あいつ、海に!」
明良の切迫した叫びに、樹也も駆け出したみたい。
でもそのときには、あたしは半端な髪をめちゃくちゃにして、海の際までたどり着いていた。
砂浜じゃなく、コンクリートで固めた岸壁。
すとん、と数メーターしたが、直接海に落ちている。
あたしが海が嫌いな理由は、めんどくさいだけじゃない。
もっと単純。
あたしは、海では泳げないんだ。
真水だと泳げるのに、変な限定カナヅチ。
いままで恥ずかしいばかりだったけど、最期には役に立つみたい。
「明姫! 止せ!」
明良の呼び声。
じいさまの呪いでも、なんでも。
やっぱり――好き。
走りきった爽快な気分で、勢いよくあたしは、空を飛んだ。