秘/恋



まず見えたのは、安っぽい真っ白な天井。

『見えました』、と感じた次には、大盛りいっぱいの吐き気が襲ってきた。

口元をとっさに押さえようとして、その肝心の腕がひどく重たいことに気づいた。

ワケがわからなくて、ぱしぱし、と二度、瞬きをした。


「あきちんッ!?」


食い付かんばかりの勢いで、誰かがあたしの傍に駆け寄ってくる。

あたしの、ベッド。

これまた真っ白な、味も素気もないベッド。

ようやく、鈍いあたしにも、理解ができた。

ここは病院で、あたしは患者。

激重な身体は、溺れたあとだから。


――あたしは、死にぞこなったんだ。



< 176 / 219 >

この作品をシェア

pagetop