秘/恋
「あんた、バッカじゃないの!?」
喚いているのは、あたしの親友。
「……なぎ」
「あんな浅いところで死ねるはずないでしょ!?
あんた、溺れ損よ、溺れ損!!」
端正な顔をぐちゃぐちゃにして、なぎが喚く。
なにか云いたい。
でも、肉体的にも精神的にも、あたし、長い言葉は云えなそうだ。
目だけきょときょと動かしたあたしの手を、毛布のうえからとんとん、と叩く手があった。
意外と骨張って、しっかりした指。
大きめの手の持ち主を、あたしはちゃんと知っている。
「ごめん」
項垂れたヒヨコ頭に、あたしは頑張って首を振る。
『ごめん』は、あたしの方。
あたしが、樹也を勝手な扱い方をした。
でも、なぎはそう思わなかったみたい。
少しだけ持ち上がった樹也の頬には、立派なゲンコの跡が残っていた。
「バカを止められないバカも、バカなのよ!」
なぎがきっぱり云い切る。
ちょっと笑えた。