秘/恋
眠れなくなってしまった。
あたしはベッドを脱け出して、パタパタスリッパを鳴らしながら病室の外へ。
非常灯がぽつん、ぽつん、と灯る廊下を、こっそり歩く。
あたしの着ているのは、借り物の寝間着だけ。
ぺらぺらの着なれない布地が、頼りない。
「あ……」
あたしは思わず、立ち止まった。
薄暗い廊下の、片隅。
合皮のぺたついた茶色いソファ。
そこに、べったり貼り付くようにつっぷしていたのは、金髪アタマ。
「なあんで、いるのかな?」
あたしが近づいても、ぜんぜん起きる気配がない。
完璧、熟睡。
笑ってしまう。
細かい泡みたいな笑いが、くすぐったい。
身体からずり落ちたブレザーを直してやったら、樹也はぐずぐずに崩れて、あごを襟に埋めてしまった。
それにまた笑って、あたしはあてどなく歩くだけ。
自然、向かうのは屋上。
なんとなく、足が向いた。
ぺったんぺったん、階段を登っていくと、少しだけ風が冷たくなる。
新鮮な空気。
冷えたノブにふれて、あたしは屋上のドアを開けた。