秘/恋
「いま、何時?」
なにもなかったみたいに。
あたしは、明良に訊いた。
明良もなにげないしぐさで、腕時計を見る。
「11時43分」
「長い一日だったね」
あたしは、笑ってみせた。
「家を出て、何時間経ったかな」
言葉にしてみると、部屋の、あたしの頭のかたちに馴染んだ枕や、しわくちゃのシーツが、やけに懐かしい。
明良は、どうかな?
「十二時間以上」
ヤツの表情は、表向き平静だ。
「そう聞くとやっぱり、長いね」
「ふだんはそんな時間のカウントしないから、長く感じるだけだろ」
半分暗闇のフィルターがかかった明良の横顔は、無愛想までいつも通り。
あたしの身体のことなんて、訊ねてこない。
あたしも、絶対に口にしない。
「どっちにしても――楽しかったよ」
「俺も」
ようやく、明良が笑った。
固い感じの、はにかむような笑顔。
あたしはそのパーツを、とりこぼさないように、胸にしまいこむ。
「一緒にいられて、よかった」
――最後に。
唇だけでそうつぶやいたのが、わかった。