秘/恋
……ぜろ……
腰まで伸びた長い髪が、秋の風にかきまぜられる。
「うっとおしい」
待ち合わせのカフェ。
見つけやすいよう陣取ったテラス席で、あたしは舌打ちする。
本当は、外でお茶なんて、大嫌い。
でも、待ちびとを見逃すのはもっと嫌で、ついつい待ち合わせのときは、外席にしてしまう。
「そもそも、毎回あいつらはひとを待たせるんだよね……」
つぶやきながらカフェオレを飲み干したところで、一着目が到着。
余裕綽々で、ワンピースの裾をさばいて椅子に座る。
ざっと、店の視線が動く。
彼女は、それだけの美人さんだ。
「ごめんね、待たせたみたい」
「見ての通りです」
「本当、ごめんなさい。お詫びにおごるわ」
「当然です。貴子さん」
「でも飲み代はあの娘たちよね」
綺麗に塗られたモーブの指先をたどれば、パタパタ、スーツ姿の男女が走ってくるところだった。