秘/恋
目の錯覚かも知れない。
ただの、他人の空似かも。
だけど、心臓が跳ねた。
それが、根拠。
だけど、追えない。
十年の歳月が、あたしの脚を凍らせる。
「行けよ」
いつのまにか、ほどけていた腕。
樹也が、ぶっきらぼうに云う。
あたしは深く、息をついた。
「……すごいね。話さなくてもあたしの気持ち、わかるんだ」
「当然。それくらい長く、一緒にいるんだからな」
「……ありがと、いいひとだよね、樹也」
「余計なコト云ってないで、ほら――行けよ」
とん、って背中を押される。
あたしは、走り出した。