秘/恋
薄っぺららなタイル張りの床に、パックが転がっていく。
埃っぽい白に、安っぽいパックのカラーリング。
心底、うんざりした。
――油断した。
潔癖症じみているけれど、俺は、他人の体温が苦手だ。
触れ合っても混じり合わない熱は、正直、気色悪い。
ぴったりと、隙間なく重なり合える生き物を知っているせい。
最上を知ってしまえば、ハンパモノは全部、価値がなくなる。
世界が、色褪せる。
「ごめんッ! 悪い、つい……」
片手で拝むようにしながら、ヒヨコ頭がひょいひょい、パックを拾ってくる。
ひとつ、ふたつと数えながら近寄ってきて、ちょっとひしゃげたパックの群れを俺に引き渡す。
「これで全部?」
「ああ……」
「そっか。悪かったな」
俺よりも少し低い目線で、ヒヨコ頭が笑う。
近くで見ると、尖った薄い唇がヒヨコよりも、あひるっぽい。
派手な髪型の割には、真っ黒な瞳の彩は静穏、だった。