秘/恋
――どうせすぐに、明姫とも関係なくなる。
明姫は、きっとこいつを『好き』になんて、ならない。
経験に基づいた、確信。
俺たちは、他の誰も、好きにならない。
いや――なれない。
「心配しなくても、俺は、明姫が好きなワケじゃない。
だからガツガツ、彼女を傷付けたりもしねえよ」
他人の口からこぼれた名前の響きに、俺は眉をひそめて。
言葉の内容を吟味するのが、かなり遅れた。
「それ以上は、保証できねえけど」
にやりと、樹也が口の端を吊り上げる。
きっと、いまの俺は、ひどい渋面。
「でも、嫌いなワケでもない。期待、してるんだ」
「期待?」
「そ。俺でも、変われんのか。
明姫はもろそうで、いびつそうで、ひしゃげたボールみたいに予想外の弾み方をしそうで、興味ある」
うきうき面の樹也に、俺はため息を吐いた。
「悪趣味だな」
「かもな。ゲテ喰いなんだ、俺」
軽い足取りで、樹也は自販機に近付いた。
小銭を投入。
迷わずボタンをプッシュ。
ごとん、と重い音を立てて落ちたパックを、意外とデカイ骨張った手が拾い上げる。
――チープなピンクの、いちごみるく。