秘/恋
「じゃあな」
「三荻」
いちごみるく片手に恰好よく退場を決めようとした樹也を、俺は反射的に呼び止めた。
いびつなプライドが、気持ち悪く歪んで、痛む。
「明姫は、傷付かないよ。
意味も価値もないヤツの、言葉になんか」
明姫は壊れ物。
俺の、お姫さま。
だけど最後の最後で、その耳はかたく閉ざされている。
彼女に語り掛けられるのは、この世にただひとり。
――彼女に、ふれられるのも。
明姫はダイヤみたいに綺麗で、頑なな姫。
樹也が、怯んだように瞳を細める。
いやに冷静な視線が、ゆっくりと、俺の輪郭をたどった。
「あんたらふたり、本当に双子なんだな」
「は?」
凝視の果ての、当たり前すぎるセリフ。
あからさまにバカにした顔の俺に、樹也は唇を歪めた。
「あんたら、よく似てるよってハナシ」
すうっと、温度の低い視線が、俺からはがれていく。
「じゃあな」
ひらひらと手を振り、樹也が今度こそ、背中を見せる。
「……なんだよ、それ……」
ぬるくなったブリックパックを抱え直して、俺はつぶやく。
小さな違和感が、苦い薬みたいに、舌の奥に残っていた。