秘/恋



ためらいながら、でもはっきりと明姫の意思で回された腕は、かすかに震えていた。

ふせられた瞳は、はっきりと明良をとらえていた。


『ばいばい、明良』


風に吹き飛ばされてしまいそうな、ささやき。

彼女の選択の意味を、俺以上に理解してる人間は、いない。

気持ちを持て余して、明姫はもがいている。

当たり前みたいに肌の添った、『好き』という気持ち。

それに絡み付く禁忌と、無力感。
その、深海の底の底で溺れるみたいな息苦しさ。

――苦しさに、答えがない。


「すごいカオ」


ふっと、蛍光灯の光がさえぎられる。

機械的に動き続けた手元に、影が落ちた。


「貴子」


ゆるやかに波打つ髪をすくいあげて、俺を見下ろすのは、俺の足掻きの産物。


――俺の恋人。



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