秘/恋



『じゃあ、あたしは帰るわね。
お邪魔みたいだし。明良、後はよろしく』


貴子はひらひら手を振り、出て行ってしまった。

スチールデスクにはどっさり、プリントの山。

俺と樹也だけ、生徒会室に残される。


――貴子、あのオンナ……。不可能とわかりつつも、心底、タコ殴りしてやりたい。


にやり、と吊り上がった赤い唇の、残像。

ヤツは絶対、面白がってる。


「……なんの用だ?」


地を這うような声で、俺は唸る。
そもそも、コイツが悪い。コイツが。

裏っ面な八つ当たり。

問題はそんなところにないって、自分でもわかっている。


「ああ、悪い」


予想外に、殊勝な応え。

戸惑って樹也を見ると、やけに真剣な瞳にぶつかった。



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