秘/恋
樹也の真剣な瞳が、俺を映し出している。
真っ黒な沼みたいに、底が探れない目だった。
「明姫を、好きになった。
いや……好きになる。たぶん」
樹也が、はっきりとした口調で云う。
『宣言』、に近い。
強い響き。
ずくん、と地面が揺れた気がした。
「……なんで、俺にそんなこと」
「云わなきゃ、フェアじゃない気がしてさ」
ついで、にっと唇を歪める。
「それと、宣戦布告。
明姫の気持ちはいま、全部まとめてあんたに向かってる。他の余白ナシって感じ。
それを、ひっくり返してやりたい」
――無理だ。
条件反射で、口走りかけた。
明姫は『じいさまの呪い』と呼んでいる、俺たちの堅く絡み込んだ絆。
明姫が、好きだ。
常軌を逸すくらい。
それは、『運命』と呼べば聞こえがいい、頑丈な鉄鎖。