秘/恋



でも、樹也の言葉にふと、こころが揺らいだ。

俺には、明姫をしあわせにできない。

血の繋がった兄と、妹。

そんなふたりが赦されないことなんて、骨の髄までわかっている。

それでも気持ちは揺らがないから、離れられないと思っていた。

でも、もし――もし、明姫が、樹也を、好きになったら?

俺の気持ちは、たぶん一生変わらない。

貴子と寝ても、明姫と距離を置いても、チャンスがあれば手を伸ばす。伸ばして、奪い取る。

明姫は、しあわせになれない。


「……好きにすれば、いい」


祈るように、つぶやく。


「後悔、するなよ」


樹也のふてぶてしいセリフ。

殴り掛かって、顔面をぐちゃぐちゃにしてやりたい衝動を噛み殺して、俺は、鼻先で笑う。


「後悔なんて、しない。
ワケわからないこと、云うなよ」


後悔なんて、しないはず、ない。

俺の願いなんて、目の前のコイツには絶対、わからない。

それだけが、妙な優越感として残った。



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