秘/恋
錆びた鉄柵の向こう、夜の闇よりも真っ黒な水溜まり。
低い街の陰影の果てに、海が横たわっている。
夜中にもなれば、秋の風は冷たい。
だけど、いまの俺には、その温度を皮膚の外側、繭を纏って外界をのぞくような心地で、感じていた。
「荘野明良」
風にまぎれ、名前が呼ばれる。
のろのろと顔を上げると、薄闇のなかでは彼の金髪は白っぽく見える。
褪せてすすけた、可哀想な彩だ。
「明姫、目が醒めた」
「そうか……」
腹の底の底から深い、深いため息が出た。
「なかなかしっかりしてる。
うちのなぎに怒鳴られて、半泣きだけどな」
「自分で飛び込んだんだから、当然だろ」
責めるような、そのくせ責めるだけに収まらない、我ながらハンパで不用意な言葉。
虚ろなこころに任せて口走る。
案の定、樹也は露骨に顔を歪めた。
「あんた……サイテーサイアクな」
「確かに」
仕方なく、笑う。