秘/恋
「会いに行かないのかよ」
いつまでも動こうとしない俺を、樹也はどこか達観したような目で見ている。
口先だけで、質問している感じだ。答えは予想済みってカオ。
コイツ、やっぱりそんなに悪くない。
――悔しいけれど。
「一度、家に戻るよ。それから……」
「そして一生、戻って来ないって?」
やっぱりコイツ、アタマがいい。
思わず、にやりと笑ってしまう。
対する樹也は苛立って、俺に睨み付けている。
考えてみれば、いままでと逆の構図。最高に気持ちがいい。
びくびくしなければならなかったのは、迷っていたからだ。
思い切って飛んでしまえば、もう怖いものはない。
――脳裏に過るのは、
クリアに吹っ切れた、明姫の笑み。