秘/恋



「あんな重くてすごいもの、くれるくらいに想ってくれる女なんて、他にいない」


受け取りかけたときの凍えるような絶望は、云い表しがたくとも。

絶対に、俺が欲しいと願わないもので、あっても。

俺は、『明姫』をもらった。

たったひとつの願いは、思いもしないかたちで叶った。

――だから、俺はなにかを捧げなければならない。


「返せるものが、俺の『不在』だけなんて、情けないけれどな。でも、決めたんだ」


保護者に守られる高校生の特権も、当たり前みたいに大学へ進学し、当たり障りのない会社に就職する。

そんな安全な未来も、捨てる。

ナルシスティックな、自己犠牲。

だけど、なにかを渡したいんだ。


「明姫に、俺のいない未来を、渡す」


俺は、家を出る。

いや――消える。



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