秘/恋



「明姫が好きなのは、あんたなのに?
明姫が一緒にいたいのは、あんただけなのに」


少し悔しそうに、樹也が唸る。


「あんたがいなきゃ、明姫は息もできない」

「一緒にいたら、息もできない」


俺は、樹也を見つめる。


「好きなのに、傍にいるのに、ふれられない。息ができなくて、気が狂う」

「手を伸ばしちまえ」


樹也が、簡単にそそのかす。

樹也独特の、やけに穏やかな瞳が俺を見つめている。


『わかってないくせに、勝手なことを云うな』


罵りは、声にならず喉の奥で消えた。

樹也は真剣な顔で云い募る。


「全部なぎ倒して、恋に殉じてみやがれ」

「無茶云うな」


なんでコイツは、恋敵を焚き付けたりしているんだろう。

損なヤツ。

俺は苦笑するしかない。


「明姫まで道連れにできるかよ」


いまの俺は幼くて、
彼女を守ることさえできない。



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