秘/恋
……いち……
簡単に。
あたしは腕をさらわれて
冷たい壁に
身体を押しつけられた。
両手は、ヤツの手で手枷。
少しだって、動けない。
「さわんないでよ」
するすると、唇からこぼれる
我ながら、憎ったらしい声。
ぴくん、と引きつる
ヤツのこめかみ。
あからさまな不機嫌に比例して
きつくつかまれた手首が、
痛い。
――でも、
自分の身体の悲鳴なんかより
相手が
あたしに
ふれていることが嬉しいなんて
あたしも大概重傷だ。
誰か
あたしはビョーキだって
赦してくれないかな。
「明姫」
少なくとも
目の前のこいつは、ダメみたい。
強い瞳で
あたしをにらみ付ける。