秘/恋



「……本気で云っているの? なぎ?」


ちょっと信じられない気分で
あたしは呟く。


「もちろん」


なぎは、平然と頷いた。


「あきくんからの逃亡のフォローまでできる、名案だと思っているよ」

「迷案?」

「それ、たぶん漢字違い」


ひらひらと、なぎが手を振る。

と、真剣な顔で一歩、踏み出してきた。

でも、次の動作はバカげている。

袋から取り出したいちごみるくを、
ひとつひとつ、
あたしに渡しはじめたんだ。

あっという間に重くなる両手に、
あたしは目をしばたかせた。

なぎが、綺麗に微笑む。

「お守り。
比べてみたら、
わかるものがあるかもよ」


するりと、長い髪を風に流して、
なぎはあたしに背を向ける。
歩き始めて
気が付いたように樹也の手を置いた。

唇を樹也の耳元に寄せて
ひそりと、一言。

何事かをささやいた。


「なっ……!?」


樹也の表情が、劇的に変わる。


「じゃあね」


それを見届けて、
なぎはひらりと手を振り
軽やかに屋上を出て行った。


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