秘/恋



「格好いいな……」

「どこが!?」


樹也は
露骨に顔をしかめたけれど。

あたしにしてみれば
その潔さは感動ものだ。


……それに比べて。


あたしは、
腕に抱えたいちごみるくを
見下ろしてみる。

それから、樹也を。


――へぼすぎる自分はイヤ。

なら、一度くらい飛んでみてもいい、かもしれない。


「じゃあ、お願い、してみたいかも」


するっと、
そんなセリフが飛び出した。

「ふうん」


なんの感慨もなさそうに、
樹也がうなずく。

そのドライさが、爽快だった。


――明良は、
どんな顔をするだろう。


ちりり、と胸が、かすかに痛んだ。


――あたしには、必要のない痛み。


「よろしく、お願いシマス」


もう一度。

あたしは喉に力をこめて、つぶやく。

唇が紡いだ言葉を、自分の耳で聴き、深く刻み込む。


――自分を、振り切るために。



< 43 / 219 >

この作品をシェア

pagetop