秘/恋
むりやり散歩に連れ出される犬よろしく
ぐいぐい引っ張られていく。
ひとが退きはじめた階段。
少しずつ話し声が消えていく廊下。
昇降口に出てときには
誰もいなくなっていた。
せき立てられて靴を履き替えてから
教室に鞄を置き去りにしてきたことに、気付いた。
気付いたけどなんとなく、
いまさらな気がする。
とんとん、と
踵で靴の調子を確かめて
それさえ待つのに焦れる樹也と、学校を出た。
最後に見上げた教室の窓。
そこからのぞく影に気付いたのは
絶対に、偶然であってほしい。
間違っても、
誰かの視線が強かったから、なんかじゃない。
……なにげなく。
そう
なにげなくあたしは
校舎を見上げて
ぎくりとした。
窓側。教室の後方。肘をついた不真面目な生徒。
あたしと、同系色の顔。
――明良。
明良が、
あたしたちを見つめていた。