秘/恋



あたしは毎日、お昼は購買で買ったパンを抱えて、なぎと華道部室に行っている。

理由は、簡単。

畳があって、
くつろげて、
なおかつ誰もいない。

あたしが考える、
なぎの七不思議そのいち。

なぜか、居心地のいい場所の鍵を、いくつもいくつも独占しているコト。

だけど今日は、新米彼氏に押し切られ、あたしはしぶしぶ、学食に来たんだ。


「明姫、笑ってる」


にや、と樹也が笑う。

そう云われてはじめて、
ほんの少しだけ、
周りのプレッシャーがやわらいでいるのに気付いた。


「メシ喰いに来たのに、ものすっげえカオしてるから。
具合でも悪いのかと思った」


心配そうでもなしに、
さらりと云う。

見てなさそうで、ちゃんと見てる。

厚かましくなく、
べたつかない視線。

あたしは、
こういう距離感に弱い。

……本当に、弱いんだ。



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