秘/恋



後ろ手で押した扉が、
頼りない音を立てて閉まる。

その扉に背中を預けて、あたしはずるずるへたりこんだ。

汚れた床に沈んだ埃が、ぶわりと舞い上がる。


ここは、図書室の奥の
【開かずの小部屋】。


生徒のなかには存在すら知らないひともいるかもしれない、そんな場所だ。


図書室の書架のどんづまり。

半分書架に塞がれたかたちの扉を見つけたのは、まだ梅雨の初めの頃。

試しに押してみたら、案外簡単に開いた。

びくびくしながら入ってみれば、
蔵書と呼ぶにはボロすぎる本が床に直接積み上げられ、
なぜか味がありすぎる革のソファが置かれた、
四畳半くらいの部屋。

薄い、威力のないひかりが、埃だらけのカーテンの隙間から差し込んでいた。

薄暗くて、狭くて、人気のない空間。

一目で、気に入った。



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