秘/恋
……はち……
埃っぽい部屋を、樹也はものめずらしそうに見回している。
「図書室の奥に、こんな場所があるんだな。
初めて来た」
もしかしたら、樹也は図書室自体、初めてなのかもしれないな。
そんなことを考えながら、腕を組んで壁にもたれかかる。
自分で立つ気力が、身体のどこを見渡しても、欠片もなかった。
「なぎから聞いたの?」
「あんたは、狭くてきッたねえ場所が好きなんだって」
「……なぎだって、ここが好きだって云ってたくせに」
小さく笑う。
笑ったら、他の本音まで溢れた。
「やっぱり、ダメだ」
あたしは、深い溜め息を吐く。
視線は足許にさまよわせたまま。
怖くて、樹也なんて見れない。