秘/恋
「……あ」
間抜けな息が、ぷすんと漏れた。
ぱちぱちと瞬きをすると、
あたしの家とは年季の違う、
古式ゆかしい天井が見えた。
「毎回云うけどな。オトコんちに来て熟睡するなよ。失礼だろが」
「毎回かな?」
「毎回だよ。あんた、俺といる時間の八割は、寝てる」
ぶつぶつぼやきながらも、
樹也は部屋の隅に置かれた、
小さな冷蔵庫に手を伸ばす。
冷たい手触りの円筒形は、
いちごみるくのパック。
赤ん坊にはミルク。
あたしにはいちごみるく。
樹也のなかで、法則になっているみたいだ。