秘/恋



「明姫、忘れ物」


と、指先でちょいちょい、と樹也が呼ぶ。

あたしは、ちょっと顔をしかめてしまった、かもしれない。


「あ~……」


ぱりぱりと頭を掻いてから、樹也に唇を寄せる。

軽い、重ねるだけのキス。


いち。

にい。

……さん。


ゆっくり三秒数えてから、身体を放した。

樹也の、ひどく冷めた瞳と目が合った。

――『これさえなけりゃ、いいのに』

ささやかな疎ましさは、お互い様だ。


「んじゃね」


ひらりと手をかざして、離れを出た。



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