once again
「あ…っ」

出ていた足にバランスを崩した私は、そのまま派手に転んだ。

ガタンッ

「痛…っ」

「あら、ごめんなさい。私の足邪魔だったみたいね」

「人の話聞こうとしないから、こんな事になるんじゃなくて?」

頭上から、笑い声が聞こえてきた。
全てにおいて、バカにされてるように聞こえた。

悔しい…

立ち上がろうとした瞬間、右足首に痛みが走った。

「痛っ…」

その場から動けなかった。

「あら、どうしたのかしら?肩でも貸しましょうか?」

乾志保が話しかけてきた。

「結構で、っ…」

「朝からなにをやってるんですか」

「あ、おはようございます。氷室室長」

室長の登場で、秘書室の空気が変わった。その鋭い視線で乾志保や新家亜都子が固まっていた。

「…室長、怪我したので、早退させていただきます。これでは仕事できませんので、失礼いたします」

もういい、このままなんて仕事が出来る訳なかった。理由にちょうどよかった。室長に頭を下げ、痛みを堪えて、右足首を引きずるように、秘書室を出ようとした…

「待ちなさい、高瀬さん。その足じゃ歩けないでしょう。病院、私の車で行きましょう」

「え?だ、大丈夫です。タクシーで行きますから…」

室長が私の方へ歩いてきた。
その目は完全に怒りに満ちていた。

「氷室室長、あ、あの…」

乾志保が室長を呼び止めた。

「か、勝手に高瀬さんが、つ、つまずいたんで…」

室長の冷たい視線が乾志保を捕らえた。そして、そこから離れようとする私を抱き上げた。そして私を抱き上げたまま、そこにいた全秘書に告げた。

「見てなかった、とでも?私は全部見てましたよ?高瀬さんの存在が気に入らないかもしれない。しかし君達に出来ない事を彼女は出来るからこそ、選ばれたんじゃないのかな?人を蹴落とす事を考える前に、自分達の能力を上げる事を考えるんだね」

「あ、あの…」

「まだ、何かあるのかな?」

室長が、乾志保を睨んだ。

「いえ、すみませんでした」

「じゃ、私は高瀬さんを病院へ連れて行く」

私を抱きかかえたまま室長は、秘書室を出た。

「室長、あ、歩けますから」

室長の腕の中でもがいた。
力に勝てる訳もなく、

「無理はさせたくない。今日ぐらい、休ませてあげるべきだったね。行くよ、病院」

「…っ、室長…」

室長も私に対して罪悪感があるのか、非常にもなれない人だったのかな…

室長に抱えられたまま、私は室長の温もりに心が揺らいでいた。

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