once again
あの兄は、血迷ったの?
実の妹を彼女って、大丈夫か?

「最後まで、聞いて下さい。涼香さん」

私の口を塞いだまま、園田さんが続けた。

「社長、今まだ決まった人がいないんです。で、今日の食事会にある人が女性を紹介すると言われて、失礼のないように断りたいと。分かってます。涼香さんが言いたいのは、周りの誰かに、と言いたいんでしょう?」

うんうんと頷いた。

「私もそうすべきだと、言ったんですが、勘違いされても困るから、害のない人間にしたいと…」

園田さんの手を振りほどいた。

「ちょ、ちょっと待って。私が害のない女なの?バレたらえらいことじゃない」

「だから、黙って笑っとけと言われませんでしたか?」

「あ…」

「言われたでしょう。勘違いしたのはそっちでしょ、と逃げるつもりなんですよ」

あのずる賢い兄が考えそうな事だな。
なんの食事会なんだろう?
ここまで来たら逃げる訳にも行かず、園田さんの言うように、話を合わせていた。

こんな所を専務や室長に見られたら、なんて言われるか…
食事会の名称を聞いても、私が専務のスケジュールで見たものにはなかったものだと少し安心していた。

確実に油断していた。


兄から園田さんの携帯に連絡があり、私を連れてこいと言われたらしい。

「大丈夫ですよ。涼香さんなら、ちゃんと彼女出来ますよ」

「園田さん、兄の彼女なんてしたくもないわよ。瑠璃なら喜んでやりそうだけどね」

「頑張って下さいね。ここで待ってます」

「はい、分かりました。行ってきます」

「高瀬!」

え?
園田さんと別れた後、誰かに呼び止められた。
私?呼ばれたのって、兄じゃないよね…
聞き覚えのある、その声の方へ振り向いた。

あ…
ダメだ。
一番見られてはいけない人に、見られてしまった。

「室長」
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