once again
兄の彼女役を、強引に引き受けさせられた私は、見つかってはいけない人に見つかってしまった。

「室長、今日は?」

「そう言う君は、何をしてるんだ?そんな格好をして」

「あ、いや。あの、お、…」

どうしよう、混乱してきた。

「さっきのは、園田さんか?」

「えぇ!だ、誰の事ですか?」

「さっき、そこで話してた人だよ。園田さんだろ?知り合いか?」

何かを疑う視線が、突き刺さった。
もうダメ。
誤魔化せない…

「僕の彼女ですよ。氷室さん、彼女の事知ってるんですか?」

声をかけられたのを見ていた、園田さんが戻ってきてくれた…ただ、

へ?
はぁ?

「あ、あ、そ、」

園田さん、と言いかけて園田さんが、目配せをしてきた。あ、

「智樹さん…」

「え?高瀬、園田さん、と?」

「ええ、この間お見合いしたんですよ。で、結婚を前提で付き合ってるんですよ、何か?涼香さんはどうして、氷室さんを知ってるの?」

どうしてこんなに、秘書の人って頭の回転早いんだろう。
園田さんの、回転早さはきっと室長も勝てないな、きっと。

「いや、高瀬、あ、高瀬さんが、うちの専務の秘書なんでね」

「あぁ、そうなんですね。じゃ、もうその仕事も出来なくなりますね。結婚したら辞めてもらうつもりなんで」

お、お願い。
話を膨らめないで…
これ以上大きくしないで。

「あぁ、そうなんだ」

「では、失礼しますね。また」

そう言いながら、園田さんは腰に手を当てて、私に微笑んだ。
近くで見ると、くらっとしそうなイケメンぶりに心がざわついていた。

ダメだ。
男性の秘書の人って、こんなに色気がだだ漏れなんだろう…

「すみません、氷室さんの事までリサーチしてなくて。ここにいるとは…」

「え?じゃ、専務が来てない事は分かってたんですか?」

「当たり前じゃないですか。社長にも言われてますからね。涼香には迷惑かけられない、って」

いや、兄よ。
もう、無理だよ。
でもそんな風に考えているとは、思わなかった。

園田さんが、器用に携帯で何かをチェックしていた。

「涼香さん、もう氷室さんは帰ったみたいですね。大丈夫ですよ」

「そうなの?食事会には来ないのよね?」

「ええ、大丈夫です」

そう言うと、園田さんは私の腰から手を離し、兄が待っている所までもう一度案内してくれた。

それからは、兄の言うように、笑顔を振りまいた。

疲れた、ただその一言。で終わった1日だった。
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