once again
「トイレで倒れてるのかと、思ったよ…」

「す、すみません」

結局、私は瑠璃との電話の後、1時間以上こもってしまっていた。
遠慮がちに、トイレの入口で蓮さんが、大丈夫か?って声をかけてくるまで。

「あ、あの、室長は?」

「ん?匠なら、室長室に戻ったよ。匠に用か?」

「いえ、じゃ専務室には蓮さんだけなんですね…」

「あぁ、そうだよ。何?二人っきりになりたかった?」

「なっ…」

「冗談だよ。ハハハ、何?俺だけが聞いていい話なんだね?」

「はい。もう!」

軽く蓮さんの腕を叩いた。
今、話してしまおう。
瑠璃は別に、って言っていたけど、ちゃんと話していたいから。

二人で専務室に戻った。
そして、専務と並んでソファに腰をかけた。

「…今までの事、申し訳ありませんでした。いろんな事を隠していて…」

「いや、謝る事じゃないよ。驚いたけど、俺たちがした事の方が、謝るべきだよ。涼香、ごめん。でも、こうやって触れられる事が夢みたいだよ。こんな所で言う事じゃない…」

「待って、蓮さん。聞いて下さい。私の事を」

「…っ、あぁ」

私は、蓮さんが話そうとしていた事を、遮った。そして、今までの事を話した。

「私は、何も考えず父の仕事を手伝っていました。父が喜ぶ顔が見たかったし、兄は好きな事をやっていたから、手伝いが出来るならって。
大学生の時に父の秘書をやってたんです。休みの時とかに。秘書の仕事はその時、園田さんから教えてもらいました。まさか、父が私を後継者にと考えているなんで思ってなかった。違う誰かが、継ぐと思ってたんです。でも違った、それを知ったのが大学4年の時です。
だから私は慌てて、会社を探したんです。就職出来る会社を。それが如月だったんです。そこからは、家を飛び出して帰っていませんでした。兄は夢を追いかけていたけど、私がいなくなった事で、慌てて戻ってきたんです。そして、後を継いでくれたんです。夢を諦めて…それで今があるんです」
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