once again
どれくらい走ったんだろう。
車を出して、最初は気分転換にと、思ったけれど、こんなに運転したのは久しぶりかも…

そうだ。
いつも、悩み事があると車で遠出したっけ。
車で走ってると嫌なことも忘れて、前だけを向く事が出来ていた。


「忘れてたなぁ、ここの景色も…」

東京から2時間ぐらいで行ける、芦ノ湖に来ていた。
もし、帰り道が混んで帰れなかったら、それはそれだ。

気晴らしがしたかったのか、室長に言われた事を考え直したかったのか…

今日は腹が立つほどの快晴。
富士山も綺麗にその姿を映し出していた。
私の心とは逆よね…

あまりの景色の良さに、携帯のカメラで写真を撮ろうとして、電源を切っている事にきがついた。

「あ、しまった。昨日電源落としてたんだ…」


電源を入れて、履歴にびっくりした。

「何これ…」

【専務 着信 10件】
【氷室室 着信 5件】

どうして?明日の事で?
室長は途中で切ったからな、怒ってるかも?
ははっ。乾いた笑みがこぼれた。

LINEも来てるし…
美玲や有里華からも…

とりあえず、美玲と有里華にはLINEを返した。
電池がなくなったことにして…

専務と室長には…

「あ、おはようございます。昨日はすみませんでした。電源が切れてたので、連絡が遅れました…」

「何か気に触ることでもあったかな?」

「いえ、そんな事ではないです。申し訳ありません。何か問題がありましたか?」

「あぁ、社長から連絡があってね。アスランのパーティには、鏑木物産のお嬢さんと行かせてくれとの事なんだ。蓮をブリリアントホテルに連れて来れるか?」

「…っ、は、はい。分かりました。連絡遅くなり、すみませんでした」

「いや構わないよ。連絡があったのが、昨日遅かったからね、電話自体は朝からかけてたから。もし、連絡つかなかったら、ホテルで直接、蓮と離れてもらおうと思ってたからね」

前の景色が、滲んでくる。
私泣いてるんだろうか…
室長に悟られるのが嫌で、出先なのでと電話を切った。

「何も始まってないし、関係のない世界だから、ね。涼香」

自分に言い聞かせた。
そう…、何も始まってない。始まる事もない。
そう思っていた。
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