恋・愛至上命令。
鏡に映すまでもなく、お母さんがしてくれたお化粧なんてボロボロの酷い顔。
みっともないくらい何度も鼻をすすって、ようやく落ち着く。

「ごめんね凪。三年分、先に泣いちゃったわ」

この歳になってこんなに大泣きするとは思わなかったし、恥ずかしくなって誤魔化すようにおどけて笑った。

『・・・・・・泣かせるつもりは無かったんですが』

素気なく聴こえた中に、困惑した気配も雑ざったのが分かって。困らせついでに訊いてみた。

「ねぇ・・・凪は? ・・・少しは寂しいって思ってくれてる?」

少しの沈黙。

『・・・・・・お嬢と同じですよ』

「・・・凪」

『はい』

目を瞑り、聴こえてくる声に全神経を集中させて。耳に。記憶に。躰中の細胞に染み込ませる。

「好きって言って」

まだその言葉をもらってない。
今もらえたら。それだけを信じて待てる、だから。

「おねがい」
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