恋・愛至上命令。
「いえ! 気遣いは無用に願いますお嬢」

わざわざその為に買い求めたって、きっと勘違いしてるだろうから。「違うの」と言い訳をした。

「今日は凪の誕生日なの。去年は色々あって・・・今年はちゃんとお祝いするつもりだったけど、出来なくなっちゃったから。代わりに誰かにあげたかったんです」

「大島のなら、なおさら自分が貰うわけには・・・」

更に困ったように頭を掻く本郷さんに、紙袋を半ば押し付けるように吹っ切れた笑みを浮かべてみせる。

「ごめんなさい自己満足で。送り迎えしてくれる本条さんに、お礼がしたいのもあったし」

そう言うと。意を決したように、やっと彼は躊躇いがちにそれを受け取ってくれ、折り目正しく頭を下げられた。

「嫁も娘達も甘いものには目が無いんで喜びます。ありがたく頂きます!」

中学生と小学生のお嬢さんと、家族4人で賃貸マンションに暮らしてるって聞いた。わりと朗らかな性格の本条さんだから、好いお父さんしてるんじゃないかと思う。切り分けたタルトを仲良さげにつついてる、家族団らんの光景が浮かんで微笑ましくなった。

「今日は早く帰ってあげてね」

本条さんはもう一度、深々と一礼すると。周囲を警戒しつつ、わたしを促して玄関の方へと颯爽と歩き出した。

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