恋・愛至上命令。
刹那。背中で交差した腕がぐっとわたしを抱きすくめた。
肩口に顔を埋めた凪からは、すぐに答えが返らない。
抱き合う格好でしばらくそうして。・・・不意に少しだけ力が緩んだ。

「・・・貴女は十分すぎるほど、私を掬ってくれましたよ」

離されないまま、敬語に戻した凪の声が耳の後ろあたりに聴こえる。

「生きることを疾うに捨てていた私を、いつの間にか泥沼から引き摺り上げて・・・真っ当な人間に戻してくれたのはお嬢です」

抑揚はあまり感じないけど静かに凪いだ声だった。

「一生、命を懸けて報いると決めています。・・・不束者ですが傍に置いてやってもらえますか」

それから顔を上げ、揺らぎなく真っ直ぐにわたしを見下ろした闇色の眼差し。

「お前だけだ。死ぬまで愛すると誓う。俺と一緒になって欲しい・・・瀬里」



どんなにかその答えを待ちわびて。

よろしくお願いしますって満面の笑顔で返事をして。
わたしも凪を誰より愛してるって。幸せいっぱいに伝えるはずだった。のに。
違うものが勝手に溢れ出て止まらなくなってた。
顔がくしゃくしゃになって、子供みたいにしゃくり上げながら泣いてた。


三年分の涙は。大洪水になって凪のシャツを濡らした。
胸元にやんわりわたしを抱え込み、頭を撫で続ける掌の温もりが温かくて。愛おしくて。
余計に切なくなったから存分に甘えきって気の済むまで。泣いた。


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