恋・愛至上命令。
二階の自分の部屋に上がり、出窓に沿って置いたお気に入りのオレンジ色のソファに躰を投げだす。
引っ越す時に持ち出したのは、洋服とか身の回りのものだけで。だからこの部屋はそのままって言ってもいいくらい。

小物が沢山置けるウォールラックとか、他にも気に入りが沢山あるわたしの居場所。でも。跡継ぎは幸生だから。いつかはここを引き払わなくちゃいけない・・・? 見回して少し感傷的に。


「・・・瀬里お嬢さん。失礼します」

ドアの向こうから声がして、返事を待たずに開く気配。
入って来た凪はトレイを片手にこっちにやって来て、ソファ脇のカフェテーブルにティーカップを置いた。

「ミルクティーです。少し甘めですが」

「ありがと」

お行儀悪く寝そべったままで。
わたしはそのまま出て行きかけた凪を不意に呼び止めた。

「凪」

「はい」

立ち止まって、あっさり目の整った顔が少しも崩れることなく振り返る。

「・・・お父さんから何か聴いてる?」

問いかけた言葉の意味を、逆に問うみたいな闇色の眼差し。

「何か話があって、みんなでご飯なんて言い出したのかと思って。・・・聴いてないならいいの」

「いえ・・・私は何も」

「・・・そう」

目礼して踵を返した凪の背中を、わたしはもう一度呼び止めてた。
自分でもどうしたかったのか。
こっちを見た凪と目が合った瞬間。口をついて出た言葉。

「凪はわたしのだから」

衝動的に・・・だった。
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