恋・愛至上命令。
それからアキラさんは、肩から手を離してわたしに向き直ると。

「一年前、泣きそうな顔で座り込んでた瀬里を放っておけなくて、声をかけた。それは本当に偶然だった。・・・瀬里が誰なのかすぐに気付いたけど、関係なかったよ。俺にはただの一人の女の子にしか見えなかったから」

真っ直ぐに見つめて静かに話し始めた。

「お互いを知らない方が優しくいられることもあるし、・・・俺も俺でいられる気がしてた。瀬里と過ごす時間が居心地が良くて、壊したくなかったから云わずにおこうと思ったんだ。・・・ごめん瀬里」

「アキラさん・・・・・・」

どうしてか。彼が本当はとても辛い何かを背負ってる人に思えて。胸が詰まる。一緒にいることで、アキラさんもどこか掬われてたの・・・?

わたしは小さく頭(かぶり)を振る。

「謝らないで・・・いいです。隠されてたことが・・・いきなりで、びっくりしただけで・・・」

「・・・そうだね、ちゃんと言っておくよ」

アキラさんは目を細め、真顔になった。

「櫻秀会・一ツ橋二の組、若頭補佐の高津晶。それが今の俺だよ、瀬里」
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