恋・愛至上命令。
「返事は今じゃなくていいよ」

晶さんは。やっとのことで口を開きかけたわたしの頬に触れ、やんわりと笑んだ。

「ゆっくり考えて俺を選んで」

「晶さん、わたしは」

「大島にちゃんと好きって言ってもらえたの?」

「え・・・?」

思わないことを訊かれて動揺が隠しきれない。口籠って視線を俯かせる。

「・・・それは、でも。知ってます・・・から」

「瀬里。言わないのは漢(おとこ)でも何でもない。ただの臆病だよ」

いつになく厳しさを漂わせた声に顔を上げる。
かかる前髪の奥からこっちを見据えた晶さんの眼差しは真っ直ぐで。凪は違うって、すぐに否定できない自分がいる。

凪を臆病だって思ったことなんてない。それは本当だった。簡単に言えない立場なのも分かってる。ただ。

抱いてくれた夜も。凪は『好き』とは言ってくれなかった。
わたしに触れる力強さと熱だけが確かなものだった。
それでも十分だって。思ってるのに。

晶さんの言葉は指先に刺さった針のように。一瞬の痛みを走らせ、小さな血だまりを作った。
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