恋・愛至上命令。
「ちゃんと怒って、わたしを好きなら・・・!」

身長差が20センチはある凪を見上げて言った。

「立場とかじゃなくて、男として怒ってよ。晶さんと結婚するつもりなんてない。・・・ずっと甘えさせてもらってたけど、それとこれとは別だから。あの場で断りきれなかったわたしを、凪は怒るべきなの・・・っ」

凪はわたしの言葉を黙って聴いてた。深い水底みたいな眼差しで見つめて。
僅かに開きかけた唇を躊躇うように結び、もう一度開く。

「・・・立場を外れたら、そんなものじゃ済みませんよ」

一段低いトーンで。凪からほんの一瞬、ピリッとした気配が。伝わった。
意味を問おうとしたけど、コートの胸ポケットからサングラスを取り出した凪は。わたしの視線をシャットアウトして呟いた。

「買い被らないでください。・・・私や高津を」






その夜。ベッドの中で本気だと言った晶さんの顔を少し、思い浮かべた。

晶さんは好き。でも愛とは違う。ふわふわの羽根布団みたいなものだわ。包まれて、温かくて安心できる。そういう人。

『答えは次に会った時に』

淡い笑みも思い返して、苦い吐息をそっと漏らした。




< 76 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop