恋・愛至上命令。
どこまで話していいかを迷い、かいつまんで、「プロポーズされ断りの返事をするつもりだったことも打ち明けた。

「高津さんのことは分かりました」

話を聴いたお母さんは静かにそう言い、後を続けた。

「大島に惚れているのなら、それを貫いて後悔だけは無いようになさい。他の誰かを傷付けることで、自分が傷付くのを恐れては駄目よ。何が一番大事なものなのかを見失わないように。・・・お見合いは今度の日曜です。明日には大島にも伝わるでしょう。どう答えを出すかは瀬里の自由ですからね」

自分のことは自分でけじめを付けなさい。
子供の頃から幸生もわたしも、そこは厳しく諭されて育った。途中で投げ出したり、半端な生き方はするなって極道の極意。

恋愛も同じだってお母さんにお尻を叩かれた。
どこか。晶さんを引き摺ってるわたしは半端だって。

ひとつ息を逃して。お母さんの肩にぽてん、と頭を乗せた。

「・・・・・・ごめんなさいお母さん。晶さんは一ツ橋の組関係者だし、もしかしたら春日に迷惑かけるかも」

「子供はそんなこと心配しなくていいのよ。MUDDLER(マドラー)の瑞恵ママを甘く見ないでちょうだい」

界隈でもトップを走り続ける、高級クラブ『MUDDLER』のママの片鱗を窺わせた妖艶な微笑みの気配。

「自分の人生を懸けられる恋なら決して手放しちゃ駄目よ、瀬里」

お母さんからもコツンと頭が寄ってきて、エールを送られた。


早く帰って凪の顔が見たい。
仄かな甘い香りに包まれながら・・・そう思った。



消さないと。晶さんの残り香を全部。
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