恋・愛至上命令。
「お嬢、お帰りなさい」

実家の玄関先で、何故か多紀さんの方がちょっと緊張した面持ちでわたしを出迎えてくれる。

「いやぁ相手が分家とは言え、一ツ橋の若頭補佐って聴いちゃあねぇ」

スキンヘッドの頭を掻きながら、珍しくネクタイしたスーツ姿で照れたように笑った。
周囲を見渡せば、見かける人間が一様に黒のスーツに黒のネクタイ。･･･お葬式じゃないんだけど。


先に居間に通され、父母弟と何かの最終面談でも始まったかの空気の中。

「瀬里姉。こんな優良物件、断る気かよ」

幸生が真っ先に呆れ顔で口火を切ってきた。

「一般的に優良でも、わたしにその気がないんだからしょうがないでしょ」

「考え直せって」

「そんなに気に入ってるなら、幸生が代わりに見合いすれば？」

「ざけんな」

言い合いって程でもなくお互い口調は冷静だ。

「おやめなさい」

お母さんのひと言で、二人とも口を噤んだ。
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