明日は変われる


「ミルクティー

よかったらどうぞ

まだ温かいよ

多分


なんで買ったのか不明なんだ」



「あるんだね、そんなことって


もしかして

なんで乗せたか不明とか

わたしもあとで言われちゃう?」


「ははははは!」


「え?

おかしい?そんなに」


わらわれたのに、

嫌じゃないんだ


あ、わらわせたからか・・



「面白いんだね

今度、一緒にドライブしない?」


勢いにまかせて言えた


言えたから、もうそれだけで

結果はどうでも



「いま、してるよ?」


「こんなんじゃなくて」


返事が出て来なかった

なんて、言ったらいいのか・・


どうしたいのか、わからないのかな

わたし

自分で


「あした、どお?」


「あしたって?」

どちらとも決められないのに

返事になっちゃうかな

こんなこと聞き返したら


「今日はもうこんな時間だから

だから、あした


良かったら」



どうしよう・・


悩んでる?

わたし

迷ってる?

行きたいってこと?



無意識に手首を強く握る


さっきまでと違う空気

振動が




横目に入った、その仕草

癖?

緊張するとなる?

それとも

なにか確認してるの?

いずれにしろ無視すべき仕草



俯いて

どうしてそんなに悲しそうな顔?


放っておけない横顔



「なんか、ごめん」


「え?

なにが?」


「いや、なんか急に

いけない事、言ったかな?って」


「ううん、そうじゃなくて・・

いけない事なんて言ってない」

でも、そう思うよね

黙ってたら



「気にしないでね」


「なにを?」


「断られても

傷つかないから」


「そうなんだ」


本当はどっちなんだろう?

このひとの場合



断りたくない

断りたくないよ


― ちょっとだけ

息がくるしい ―



でも知らないひとだから



いままでで一番長い沈黙




明るい方へ連れて行ってくれる?


信じない方が楽

そんなこと



でもまた

上を向きたい

もうずっと無いけど


出来るかも



「うん」

恥ずかしくて、こうしか答えられない

答え方が解らなくて・・


「え?」


「うん」



嬉しそうな笑顔

向けてくれた

わたしに



―――――――





「この辺でいいのかな?」


「うん、

すぐそこだから」


「ねえ、どうしよう?

連絡先」

わたしから訊いた


「だって、来てくれるでしょ?

それに、」


「それに?」


「もし気が変わったとき、放置しやすいでしょ?」


「来るよ、約束した以上」


「オレは絶対来るよ」


「あたしだって

わたしだって来るよ」


「オレは死んでも来るから」


「幽霊になって?」


「そう」


「じゃあ信じる」


「今から行って待ってようかな」


噴き出す


「約束も違うんだね」


「うん?」


「ふつうのひとと

じゃあね

あ」


「ん?」


「ありがとう

送ってくれて」


「ああ

どういたしまして

じゃあ」


「うん」



待ち合わせの場所と時間だけ決めて別れた


空の色が紺色から濃い青に変わり始めた



――――――――




独りの部屋で

さっきの会話を思い出す


「名前も訊かないの?」

「今度逢ったとき、当ててみるよ」


お互いの名前も知らないまま


言うことがいちいち変わってる


なんだったんだろう

あのひと

初めて逢った気がしない



本当にいたのかな

ボーッとして夢見てたのかも知れない

そっちの方がホントっぽい

それぐらい

今迄の人生に無いこと



もしここでいのちが終わったら


すこしだけ幸せかも知れない



―――――――――




送ってもらった短い時間

その事が繰り返し何度も

浮かんだ

ずっと続けばいいのに

そう思うほど楽しかった



シャワーで

髪を流しているとき

「綺麗な言葉」

そう言われた時の声がよみがえった


褒められたの?

あるんだ

そんなこと

胸のあたりがちょっとだけ

せつなくなる


結局、寝たのは

随分と明るく成ってから


とても深い眠りに

溶けて行った


―――――――


なぜか、いつもより

気持ちよく眠れた

いつも目覚めにかんじる憂鬱も

きょうは無い



起きてすぐ

あしたの事で頭がいっぱいになった



どれを着よう

とにかく昨日と違う服

そんな当たり前のことが浮かんだ


持ってる中で一番明るい服を選んだ


昨日と違う髪型

低めのポニーテール


そう、今度はカブリオレだって解ってるから


なんか緊張

早く明日になって欲しいような

明日にならないで欲しいような



――――――――――



約束の日

明るい曇りの空

もう着いちゃった

約束の場所に

なんでだろう

今日の方が

ドキドキする

もうそろそろ時間

まだ来ない

来るとしたら

どっちからだろう?

向こうだよね

歩道橋のある方


違う車ばっかり来る


約束したんだから

来てくれるよね?

嘘つくひとには思えなかった

けど

そんなの

わたしにはわかんないのかな

人を見る目がある人だったら

わかるの?



嫌な予感

自然と深呼吸して

爪先を見た


やめよう

通りの先を覗くのをやめて

目を閉じて

落ち着いて待ってよう



来ないとか?



怖い予感

目を開ける

やっぱり通りの先を見てしまう


「あ・・」


来た、

あの車


また少しドキドキする

現実感が、

ほんの少しだけ揺らぐ

だって、

来ない方が現実っぽいから



なんでこんなに嬉しいんだろう?

自分


ピッタリの位置に停まってくれる車

この色、こんなに好きだったかな

違う



明るく挨拶

ふたりとも


手でどうぞってしてくれて

それに小さく頷いて乗る



「遅れちゃった」


答えずに

聴こえないぐらいの溜め息


「怒ってる、

よね?」


涙で

喋れないから

いま



ゆっくりと動き出す車



涙?

うつむいて目を伏せて

どうして、そんなに?

また悲しそうな顔

でも、昨日と少し違う

なにかが



「怒ると泣くの?」


その言葉に笑った

泣いてるけど

一緒に笑った

これで何度目?

一緒に笑うのが楽しい


「なにか有った?」

とぼけて訊いた


「うん

いま

いま有った」


「ごめん、遅れたこと?」



「いいことが」


「いいこと?」



「そう

すっごくいいこと」




すいている道に出た


伸びをしたい気分




変われるんだ、きっと

いままで、ずっと動けなかったのに

新しい方へ


一日でこんなに変わったんだもの






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