君を借りてもいいですか?
人気のないベンチを探し、椅子に座るまで私たちに会話はなかった。

だって頭の中が混乱しててわけがわからなかったからだ。

ベンチに座って大きく深呼吸をして視線を白石さんの方に向ける。

「私を借りたいってどういうことですか?わかるように説明してください」

本を借りるのとはわけが違う。

「実は、僕に縁談話があるんです」

「縁……談ですか……」

白石さんは白石通商の御曹司。縁談の一つや二つはきっとあるんだろう。

凡人にはわからない大企業の家族ならではのしがらみのようなものがあるのかもしれない。

でもそれと私を借りたいがうまく結びつかない。

「前にも話したけど結婚に全く興味もなければ、したいと思わないんだ。もちろん家があんなんだからいつかは結婚しなきゃいけないと思ってる。だけどそれは今ではない。だが、俺の伯母の知り合いの娘さんが俺のことをえらく気に入ったとかでどんどん話を進めてくるんだ」

「は〜」

イケメンがお嬢様に見初められてってなんかお伽話を聞いているような感覚だ。

「でも俺にその気はない。そこで……君の存在を思い出したんだ」

「私?」
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