君を借りてもいいですか?
「絶対に2人のことがばれないようにすればいいことだし、もしこの企画が爆発的に話題になって万が一書籍化したらそれが図書館に並ぶかもしれないんだよ。栞が大好きな本の主役になるんだよ」

これは絶対に悪魔のささやきだ。天使のささやきなら絶対にこんなこと言わない。
だけど私は自分が主役になったものが勤め先の図書館に置かれ、それをみんながこぞって借りる姿を想像してしまったのだ。
大好きな本の中に自分が活字になって、それをみんなが目をキラキラさせて読んでいる光景が目に浮かんだら、さっきまでの否定的だった気持ちがスーッと消えていくような気持ちになった。

「でも…白石さんはOKするかな?」

「OKも何も言わなくていいわよ」

「えええ?でもそれじゃ〜」

「何言ってんの?そもそも住む世界が違う人の恋人役を演じるのは栞、あんたよ。見返りだと思えばいいの。それに絶対にばれないようにするし、そもそも女性ファッション誌なんか読まないわよ」

言われてみれば確かに白石さんが女性ファッション誌を愛読しているとは思えない。

「うん……でも、偽の恋人と言っても1〜2回会うくらいだと思うけど、そんなのが記事にできるの?小説にするほどのものじゃないかもしれないよ」

だが亜矢は、もしそうであっても脚色するから問題ないとかなり自信ありげに頷いた。

結局、亜矢は明日編集長にこの企画が通るように直談判も辞さないと鼻息荒く、持ってたタブレットで企画書を書き始めた。

それもものすごい速さで書いている。

そんな亜矢を横目に私は缶ビールを飲みながら呑気に書籍化されたことを想像してしまったのだ。。
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