君を借りてもいいですか?
浴衣とタオルをとっていざ、大浴場へ…と勢いつけてスリッパに履き替えようとしたたものの、肝心な大浴場の場所を聞いていなかった。

仕方なく湊人に場所を聞こう回れ右をすると湊人が後ろに立っていた。

「あ、あの…大浴場って」

「風呂ならあっちにあるよ」

湊人が私の手を握った。

「え?私は大浴場が––」

知りたい。そう言おうとしたのだが、湊人が戸を開けたその先にあったのは露天風呂だった。

もちろんこれは後で作られたものだと思うが、そう思わせないほどこの客室に馴染んでいた。

大きな円形の檜風呂と間接照明が幻想的だ。

「どうせならここに入れば?誰にも気兼ねすることなく入れるし、ここの温泉は肌がツルツルになるよ」

得意げな顔をする湊人だが、気兼ねなく入れるわけがないじゃん。

一緒に入らないにしろ、近くに湊人がいると思うだけで緊張しちゃうよ。

すると湊人が急に笑い出した。

「え?」

「ハハハ…ごめん。でも本当にわかりやすいくらい顔にでるんだな。大丈夫だよ。のぞいたりしない。栞が入っている間俺はあっちの部屋で仕事してるから」

「仕事?」

迎えにきた時は仕事終わらせたって言ってたけど…ここに来るために持ち帰った?
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