君を借りてもいいですか?
「なにそれ?!」

目を大きくさせ興奮する亜矢を目の前に近況報告という名の打ち合わせをしている。

湊人とのやりとりは小説のネタとしては十分すぎるからだ。

まさかの縁談相手と遭遇してしまった李、いきなり老舗旅館でのお泊りだから。

「栞は持ってる人なんだよ」

「持ってる人?」

持ってる人というのは簡単に言えば運がいい人。なぜかいいことが起こったりする人のことを言うのらしいのだが…

だったらもっと違う人生があったのでは?と思わずにはいられないのだ。

「でもさ、彼もその縁談相手を見てないんでしょ?」

「写真だけは見たらしいけど…関心ゼロ」

「仕方ないじゃん。彼は美人だろうがそうじゃなかろうがとにかく、結婚したくないんだよ。だけどね〜」

亜矢は私の書いたレポートを見て唸った。

「なに?」

「いや、その割になんか矛盾点も多いと言うか…」

それ、実は私もめちゃくちゃ感じていた。

旅行に行った帰りの車の中、私はずっとこれでいいのか?と自問自答していた。

好きにならない人として私を選んだのに、2人過ごした時の想定外の甘さ。

手を握ったり、私の名を呼ぶ時の優しい声、いくらそれっぽく見せるための練習いっても、あれじゃあ
もしかして本気なの?と錯覚を起こしてしまう。
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