君を借りてもいいですか?
「おかえり〜」

玄関まで出迎えると満面の笑みの湊人が靴も脱がずに立っている。

「どうしたの?」

「ん?さっきは『行ってきます』今は『ただいま』だろ?なんか新鮮な気持ち〜」

ちょっとどうしちゃったの?なんかすごく甘い会話にしか聞こえない。

ダメダメ私は偽の恋人。そこに甘さは入りません。

「それは良かったです。それより凄い量だけど…」

敢えて真顔で答える。

私が頼んだものは両手が塞がる量ではない。

「なんか色々欲しくなって、気がつきたらこうなった」

それは余裕のある人が言えるセリフだわ。

買ってきたものをキッチンへ運んでもらい、早速料理開始。

「なんか手伝うことある?」

手伝う気満々の湊人。

「じゃ〜お風呂の準備お願いしようかな?」

すると湊人は返事をせず、ニコニコしている。

「湊人?」

「な〜んかさ。新婚夫婦みたいだなって思ってね」

確かに、私が料理して、湊人がお風呂の準備っていうのは家庭的な光景だ。

でも、結婚したくない人の言うこと?

「はいはい。とにかくお風呂お願いします」

「は〜い」

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