君を借りてもいいですか?
私は湊人の前まで行くと手を差し出した。

「言ったから返してよ」

でもまだ返してくれない。

「湊人?」

「栞の笑った顔がすごく可愛くて、その理由が知りたかったんだよ。まさか俺に対してとか……」

湊人の顔がほんのりと赤くなっているのを見て私まで赤くなる。

だってこの顔も可愛いと言うか母性をくすぐると言うか、不覚にもキュンとしてしまった。って言うかお互いに可愛いって思ったって漫画や小説じゃあるまいし、まして私が可愛い?

「ちょ、ちょっと湊人、大丈夫?」

「な、何が」

「何がって私が可愛いなんて美的感覚おかしいよ?」

すると湊人が驚きの表情を浮かべた。

「おい、何言ってんの?自分のこと過小評価しすぎなんじゃないの?俺はバーで初めて栞と出会った時、綺麗な人だって思ったよ。だから声かけたんだけど」

「ええええ?嘘!」

何もかもが私には初めてもらう言葉だった。

男性から可愛いもさることながら綺麗なんて言われたこともなかったし、声をかけられたのもあの日が初めてだった。

湊人は驚く私を見て、やれやれとため息を吐いた。

「栞の場合、おひとりさま満喫アピールがすごかったから、声はかけづらかったよ」


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